〜 幕間 〜

 

 

 ぼくは思う。

 ここ恋恋高校でこそ、君を支えられる。

 それこそが野球同好会に入ると決めた理由だった。
 彼女、早川あおいを支えたい。
 早川あおいを一目見た瞬間、ぼくは麻酔をかけられたような鋭い、鈍い感覚が脳髄を巡ったのだった。
 彼女を支えることが、きっとぼくの生きがいになるはず。

 もともと、ぼくは自分を第一に思えない男であった。まだ年端もいかぬ頃からぼくの立ち振る舞いのすべてが自分を覆うまわりを考えたものであり、両親や親類、そして友人たちを喜ばせるために様々な行動をしたものだ。親から勉強しろといわれれば勉学に励み、友人から部活動に付き合えといわれればそれに興じる。

 自分がない、と珠に言われる。

 足立真吾個人はどこにあるのだ? 足立真吾の意思はどうなのだ? そんな風に言われることにも慣れてきた。なんのこともない。他人を持ち上げ、支えることそのものがぼくの「意思」である。

 ぼくは、夜間にしか輝けない可哀相な月。だからぼくには、太陽が必要なのだ。

 太陽の光があるからこそ輝ける。月があるからこそ太陽の光がより眩しく感じられる。そんな人のそばにいたかった。それがぼくの短い人生で学んだ真実であり、一筋の道なのである。そう確信していながら、ぼくは時折たとえようもない不安に苛まれ、迷うこともあった。

 麻美。

 君を支えようと思ったこともあった。君のために生きようと思ったこともあった。

 けれどそれは敵わなかった。

 あの事件がすべての始まりであり、そしてぼくたちの終わりを告げるものだったのだから。中学二年の秋のこと。天才投手和久井の崩壊が引き金となり、ぼくと麻美のつながりも消える。

 彼女は、違う。

 ぼくのあまりに冷たい感情はそう判断してしまった。支えるべき存在は彼女でない。ほかにいたのだと。今思えば、それは正常な状況での判断ではなかったとも思えるし、また結果的に良い方向に働いたとも思える。いくらか冷静になったとはいえ、今でも可否はわからない。そんな決別しきれぬ過去が背中に張り付いている。いくら払っても落ちはしない。しかし、それでいい。その張り付いた過去の幻影こそが、今の足立真吾を形成している存在なのだから。決して忘れない。そのかわり、恐れない。すべてを背負い、立ち向かう。

 早川あおい。

 ぼくは、彼女を支えることで自分を保ちたかったのかもしれない。他人を思う心こそが足立真吾という男の存在理由であるのだ。だから、ここ恋恋高校で彼女を支えよう。彼女のプロ入りを心から応援しようと。だからぼくはキャッチャーマスクをかぶる。彼女の投球を受けるために。自分の素顔を隠すために。

 さあ、いこう。

 まだまだ、ぼくの「存在理由」は確立されてはいない。

 

 

 

To Be Continued by "2nd Year"

 

 

>>#.13 成就


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